退職後の健康保険、国保か任意継続か——年収別シミュレーションで損得を比較【2026年版】
社会保険・年金
会社を辞めてフリーランスになるとき、最初に迷うのが健康保険です。
日本は「国民皆保険制度」なので、独立後も必ずどれかの公的医療保険に入らなければなりません。会社員時代の健康保険からの主な切り替え先は、国民健康保険(国保)と任意継続の2つ。「どちらが安いか」は人によって逆転するため、独立前に試算しておくのが正解です。
この記事では、任意継続の保険料の計算方法(令和8年度=2026年度の最新値)、国保との比較、年収別の損得の目安、そして2022年改正で可能になった「1年目は任意継続→2年目に国保へ切り替え」という戦略までを実務目線で整理します。
まず整理:独立後の健康保険は4択
退職後の選択肢は、大きく次の4つです。
| 選択肢 | 保険料の目安 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 家族の扶養に入る | 0円 | 独立直後で年収が低い(130万円未満が目安) |
| 国民健康保険 | 前年所得に応じて変動 | 一般的なフリーランス |
| 職種別の健保組合 | 国保より安いことも | 対応職種(文芸美術・建設など) |
| 任意継続 | 在職時保険料の約2倍(上限あり) | 扶養家族が多い・在職時の収入が高い人 |
まず検討すべきは「家族の扶養」です。配偶者や親が会社員・公務員で、自分の年収が130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満)の見込みなら、保険料が一切かからずに済みます。独立直後で売上が立つまでの期間は、この選択肢を最初に確認しましょう。
扶養に入れない場合の主戦場が、国保 vs 任意継続です。以下で詳しく比較します。
なお、健康保険を含む社会保険全体の仕組み(会社員とフリーランスで加入する保険がどう違うか)は、無料のフリーランス検定(ベーシック・30問)の出題範囲でも扱っています。基礎の確認に活用してください。
任意継続とは——在職時の保険を最大2年間続ける制度
任意継続は、退職前に加入していた会社の健康保険を、退職後も最大2年間続けられる制度です。
利用できる条件は2つ。
- 退職日までに継続して2か月以上、会社の健康保険に加入していたこと
- 資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申請すること
この「20日以内」は非常に短く、しかも厳格です。1日でも過ぎると原則として任意継続は使えなくなるため、退職が決まった時点で手続きの段取りを確認しておきましょう。
任意継続の保険料は「在職時のほぼ2倍」
在職中は健康保険料を会社と折半していますが、任意継続では会社負担分も自分で払うため、保険料はおおむね在職時の2倍になります。ただし、計算の基礎となる標準報酬月額には上限が設けられています。
協会けんぽの場合、令和8年度(2026年度)の任意継続の標準報酬月額の上限は32万円です(令和7年度から変更なし)。在職時の標準報酬月額がこれを超えていた人は、32万円で頭打ちになります。
保険料率は都道府県ごとに毎年改定されます。協会けんぽ東京支部の健康保険料率は、2026年3月分(4月納付分)から9.85%(前年の9.91%から引き下げ)です。
2026年度の注意点:新しい負担が加わります
2026年4月分から、健康保険料に全国一律の「子ども・子育て支援金率(0.23%)」が新設・上乗せされます。また40歳〜64歳の人は介護保険料率(令和8年度は全国一律1.62%)も加わります。実際の保険料は、お住まいの都道府県の令和8年度保険料額表(協会けんぽ)で必ず最新の値を確認してください。
計算の目安(協会けんぽ・東京・40歳未満・2026年度)
標準報酬月額が上限の32万円に達している場合、健康保険料率を9.85%とすると、
- 320,000円 × 9.85% ≒ 月3.15万円前後(年額およそ38万円)
これが任意継続の保険料の上限イメージです。40歳以上は介護保険料率(1.62%)が、2026年4月以降は子ども・子育て支援金率(0.23%)が上乗せされるため、もう少し高くなります。
ポイントは、任意継続には上限があるので、在職時の給与が高かった人ほど割安になりやすいということです。
国民健康保険とは——前年所得で決まる「後払い」
国保は、退職後14日以内に住んでいる市区町村の窓口で手続きします(離職票・退職証明書などが必要)。
国保の最大の特徴は、保険料が前年の所得(収入−経費)で決まることです。自治体ごとに計算式が異なり、所得が高いほど保険料も上がり、上限額が設定されています。
ここに独立1年目の落とし穴があります。会社員時代に高い給与をもらっていた人は、独立した年に国保へ入ると前年(会社員時代)の高い所得をもとに保険料が計算されるため、想像以上に高額になりがちです。
国保は「後払い」の発想で
独立1年目の国保料は、前年の会社員時代の所得で決まります。一方、独立2年目の国保料は、独立1年目(売上から経費を引いた所得)で決まります。つまり1年目に所得が少なければ、2年目の国保料はぐっと下がる可能性があります。
なお、収入が大幅に減った場合は、自治体の減免制度(法定軽減・自治体独自の減免)を申請できることがあります。該当しそうなら窓口で確認しましょう。
年収別シミュレーション:どちらが得かの目安
ここまでをふまえ、独立直後の「どちらが得か」の傾向を整理します(協会けんぽ・東京のモデルケース。実額は自治体・年齢・扶養状況で変わります)。
| 独立前の年収(目安) | 独立直後の傾向 | 理由 |
|---|---|---|
| 〜約300万円 | 国保が有利になりやすい | 任意継続は在職時保険料の2倍で割高になりがち |
| 約400〜600万円 | ケースバイケース(要試算) | ちょうど逆転ゾーン。両方を計算して比較 |
| 約700万円〜 | 任意継続が有利になりやすい | 任意継続には上限(標準報酬月額32万円)があるため |
| 扶養家族が多い | 任意継続が有利になりやすい | 任意継続の保険料は本人分のみで、扶養人数が増えても上がらない |
特に見落とされやすいのが扶養家族です。国保には「扶養」という概念がなく、世帯の加入者全員分の保険料がかかります。一方、任意継続の保険料は本人分だけで、扶養家族が何人いても増えません。配偶者や子どもを扶養している人は、この差で任意継続が有利になることがよくあります。
付加給付も判断材料に
保険料の額面だけで選ぶのは早計です。在職中の健保組合に独自の付加給付(人間ドック補助・高額医療費の上乗せ給付など)があった場合、任意継続を続ければ2年間その福利厚生を維持できます。国保に切り替えると、こうした付加給付は失われます。元の健保組合に内容を問い合わせて判断材料に加えましょう。
2022年改正で「途中で乗り換える」戦略が可能に
2022年1月の健康保険法改正で、任意継続の使い勝手が大きく変わりました。
改正前は、任意継続をいったん選ぶと「2年間の満了」「保険料滞納」などの限られた事情がない限り途中でやめられず、国保のほうが安くなっても乗り換えられませんでした。
改正後は、任意継続被保険者がいつでも自ら資格喪失を申し出られるようになりました。これにより、次のような柔軟な戦略がとれます。
- 独立1年目:前年(会社員時代)の所得が高く国保料が割高になりやすいため、上限のある任意継続を選ぶ
- 独立2年目:1年目の所得が確定したら国保料を試算し、国保のほうが安ければ「任意継続被保険者資格喪失申出書」を保険者に提出して国保へ切り替える
切り替えの手続き
加入中の保険者(協会けんぽまたは健保組合)に「任意継続被保険者資格喪失申出書」を提出します。資格喪失後は、14日以内に市区町村の窓口で国保の加入手続きを行いましょう。
「とりあえず任意継続にしておき、国保が安くなったタイミングで乗り換える」という二段構えが、いまは現実的な選択肢です。
職種によっては「国保組合」でさらに安くなることも
第3の選択肢として、職種別の国民健康保険組合があります。所得に関係なく保険料が定額のことが多く、所得が高い人ほど一般の国保より割安になるケースがあります。
- 文芸美術国民健康保険組合:デザイナー・イラストレーター・ライターなど文芸・美術系向け。ただし組合に直接は加入できず、加盟団体(日本イラストレーター協会など)にまず加入する必要があります。
- 建設国保(土建組合など):建設・土木・大工など建設系の職種向け。
自分の職種に対応する組合があるか、加入要件・保険料はどうかを、独立前に調べておく価値があります。
独立前チェックリスト
- まず家族の扶養に入れないか確認した(年収130万円未満が目安)
- 在職時の任意継続の保険料を試算した(標準報酬月額×料率×2、上限32万円)
- 独立初年度の国保料を、前年(会社員時代)の所得をもとに自治体の試算ツールで確認した
- 扶養家族の有無を比較に反映した(任意継続は本人分のみ)
- 在職中の健保組合の付加給付の有無を確認した
- 自分の職種に対応する国保組合がないか調べた
- 任意継続の申請期限「資格喪失日から20日以内」を把握した
開業手続き全体の流れ(開業届・青色申告承認申請の出し方)は「フリーランスの開業届の書き方・e-Taxでの出し方と青色申告承認申請をセットで」で解説しています。あわせて確認してください。
まとめ
- 退職後の健康保険の主戦場は国保 vs 任意継続。扶養に入れるならまずそれを検討する
- 任意継続は在職時保険料の約2倍だが上限(令和8年度=標準報酬月額32万円)があり、在職時の給与が高い人・扶養家族が多い人ほど有利になりやすい
- 国保は前年所得で決まる「後払い」。独立1年目は前年(会社員時代)の高い所得で計算されるため割高になりやすい
- 2022年改正でいつでも途中脱退できるようになったため、1年目は任意継続、2年目に国保へ切り替えという戦略が使える
- 額面だけでなく、付加給付・扶養家族・職種別組合まで含めて総合的に判断する
健康保険の選び方は、フリーランスとして独立する直前・直後にこそ差がつくテーマです。社会保険・年金から確定申告・契約実務まで体系的に学びたい方は、電子書籍『フリーランスの教科書』もあわせて活用してください。
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