会社を辞めてフリーランスになると失業手当はもらえない?——再就職手当が出る場合と、絶対にやってはいけない申請【2026年】

社会保険・年金

「会社を辞めてフリーランスになるなら、失業手当はあきらめるしかない」——独立を考えている人からよく聞く言葉です。

これは半分だけ正解です。たしかに開業届を出した時点で「失業状態」ではなくなるため、基本手当(いわゆる失業手当)を日割りで受け取り続けることはできません。しかし雇用保険には、早期に安定した職業に就いた場合だけでなく「事業を開始した場合」も対象になる「再就職手当」という給付があります。

ただしこの制度には、知らずに踏むと重い制裁を受ける前提条件があります。この記事では、ハローワークが公表している支給要件と金額の計算方法を整理したうえで、絶対にやってはいけない申請の形も明記します。


最初に:この制度の大前提

再就職手当の話をする前に、外してはいけない前提があります。

基本手当も再就職手当も、「働く意思と能力があるのに職がない=失業状態」の人を支えるための制度です。再就職手当が想定しているのは、求職活動をしていた人が、結果として開業(独立)という形で再就職に至ったケースです。

したがって、最初から独立・開業するつもりで会社を辞めた場合は、そもそも「失業」にあたらず対象外です。

⚠️ 不正受給の制裁は重い

「開業予定を隠して求職を装う」「手当をもらうために開業日や申請をずらす」といった使い方は、不正受給にあたります。発覚した場合は受給額の全額返還に加えて**2倍の追徴金(合計3倍相当)**が課され、さらに詐欺罪として刑事責任を問われる可能性もあります。

以下は「純粋に求職していたが、結果的に開業に至った」場合の整理であって、手当を取りにいくための逆算手順ではありません。この前提を外れる使い方はしないでください。


基本手当日額の上限は毎年8月1日に変わる

再就職手当の金額は「基本手当日額」を土台に計算されるので、まず基本手当日額の上限を押さえます。

厚生労働省の発表によると、令和8年(2026年)8月1日からの基本手当日額の上限額は次のとおりです。

離職時の年齢 基本手当日額の上限額
30歳未満 7,450円
30歳以上45歳未満 8,270円
45歳以上60歳未満 9,110円
60歳以上65歳未満 7,830円

基本手当日額の最低額は2,562円です(同じく令和8年8月1日から)。

この上限額は毎年8月1日に改定されます。自分の基本手当日額は、ハローワークで交付される雇用保険受給資格者証に記載されているので、そちらの実額で確認してください。


再就職手当の8つの支給要件

ハローワークの案内資料では、再就職手当の支給要件が次の①〜⑧として示されています。

  1. 就職日の前日までの失業の認定を受けた後の基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上あること
  2. 1年を超えて勤務することが確実であると認められること
  3. 待期満了日以降の就職であること
  4. 離職理由による給付制限を受けた場合は、待期満了後の1か月間については、ハローワーク等または許可・届出のある職業紹介事業者等の紹介により就職したものであること
  5. 離職前の事業主や、その関連事業主への再就職ではないこと
  6. 就職日前3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていないこと
  7. 受給資格決定(求職申し込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものではないこと
  8. 原則として、雇用保険の被保険者資格要件を満たす条件での雇用であること

自分で事業を始めるケースでは、⑤⑦⑧のような「雇われる」ことを前提にした要件は直接には当てはまりませんが、①支給残日数が3分の1以上あること、③待期満了日以降であること、そして**「1年を超えて事業を継続することが確実と認められること」**は共通して問われます。

要件⑥にある「3年以内に再就職手当を受けていないこと」は見落としやすいポイントです。過去に転職で再就職手当を受け取っていると、就職日を基準に3年間は対象外になります。


いくらもらえるのか——70%と60%の分かれ目

再就職手当の額は、就職等をする前日までの失業の認定を受けた後の支給残日数によって給付率が変わります。

再就職手当 = 基本手当日額 × 支給残日数 × 給付率(70% または 60%)
                                        (1円未満の端数は切り捨て)

給付率の分岐:
  支給残日数が所定給付日数の 3分の2 以上 → 70%
  支給残日数が所定給付日数の 3分の1 以上 3分の2 未満 → 60%

所定給付日数別の目安は次のとおりです(ハローワーク資料より抜粋)。

所定給付日数 60%になる残日数 70%になる残日数
90日 30日以上 60日以上
120日 40日以上 80日以上
150日 50日以上 100日以上
180日 60日以上 120日以上
240日 80日以上 160日以上
330日 110日以上 220日以上

つまり早く次の仕事(事業)を始めるほど残日数が多く、給付率も高くなる設計です。

⚠️ 再就職手当の計算には別の上限がある

再就職手当を算出する際に使う基本手当日額には、上で見た基本手当の上限額とは別の、より低い上限が設けられています。東京労働局のQ&Aでは、令和7年8月1日〜令和8年7月31日に適用される額として60歳未満6,570円、60歳以上65歳未満5,310円が示されていました。**この額も毎年8月1日に改定されるため、令和8年8月1日以降に適用される額は必ず管轄のハローワークで確認してください。**本記事では現時点で確認できた最新の公表値のみを示し、改定後の額は断定しません。


給付制限と「開業日」の関係

自己都合で退職した場合、待期7日のあとに給付制限期間が置かれます。

2025年4月1日以降の離職については、この給付制限が原則1か月に短縮されました(従来は原則2か月)。ただし5年以内に3回以上自己都合で離職している場合は3か月とされています。また、離職期間中や離職日前1年以内に一定の教育訓練を受けた場合には給付制限が解除される取扱いもあります。

ここが独立を考える人にとって最大の実務上の落とし穴です。

要件③のとおり、待期(7日)が満了する前に事業を開始してしまうと対象外になります。さらに給付制限を受けた場合には、待期満了後の一定期間内の開業が対象外として扱われる運用があります。開業届の提出日、実際の事業開始日、ハローワークへの申請日の順序によって結論が変わるため、ここは自己判断が最も危険な部分です。

fail-closed な結論:開業日をいつにすべきかは、離職理由・給付制限の有無・所定給付日数・管轄ハローワークの運用によって判断が分かれます。**税務署に開業届を出す前に、必ず管轄のハローワークで自分のケースを相談してください。**本記事は一般的な制度の枠組みを説明するもので、個別の可否を保証するものではありません。


事業開始で申請するときに求められるもの

事業を開始したことを理由に再就職手当を申請する場合、ハローワークは**「形だけの開業」ではなく、実際に1年を超えて継続できる事業かどうか**を確認します。一般に次のような資料の提出を求められます。

  • 開業届の写し(税務署の受付印または受信通知があるもの)
  • 事業の実態がわかる書類(業務委託契約書、請求書、入金がわかる通帳の写しなど)
  • 事業計画や取引先がわかる資料

どの資料をどこまで求めるか、どの程度の売上・受注があれば「1年を超えて継続できる」と認めるかは、管轄のハローワークの運用によって差があります。ネット上には「月◯万円以上の売上が必要」といった具体的な数字も出回っていますが、法令に明記された全国一律の基準ではないため、本記事では特定の金額基準は示しません。自分の管轄窓口に直接確認するのが唯一確実な方法です。

なお、独立後に自分自身が雇用保険(失業手当)の対象になることは原則ありません。フリーランスは労災保険の特別加入という別の制度でしか公的な就業リスクをカバーできない点は、フリーランスと労災保険の記事で整理しています。


退職から開業までに並行して決めること

再就職手当の可否と並行して、退職直後には期限のある手続きがいくつも走ります。

こうした「独立直後にやること」の全体像は、登録不要・無料の10問で自分の理解度を確かめられます → https://freelance-kentei.jp/?l=3


まとめ

  1. 「開業届を出したら失業手当はもらえない」は半分だけ正解。求職活動の結果として開業に至った場合は、基本手当の残りを再就職手当として一括で受け取れることがある
  2. 最初から独立目的で辞めた場合は対象外。隠して申請すれば不正受給となり、全額返還+2倍の追徴金、さらに詐欺罪に問われうる
  3. 金額は「基本手当日額 × 支給残日数 × 70%または60%」。残日数が所定給付日数の3分の2以上なら70%、3分の1以上なら60%
  4. 基本手当日額の上限は令和8年8月1日改定(30歳未満7,450円/30〜45歳8,270円/45〜60歳9,110円/60〜65歳7,830円、最低額2,562円)。再就職手当の計算にはさらに別の上限がある
  5. 給付制限は2025年4月以降の離職で原則1か月(5年に3回以上の自己都合離職は3か月)。開業日の設定は自己判断せず、必ずハローワークに相談する

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参考リンク

本記事は2026年8月時点で確認できた公表情報にもとづく一般的な解説です。雇用保険の給付額や給付制限の取扱いは改正されることがあり、支給の可否は個別事情によって判断されます。実際の手続きにあたっては必ず管轄のハローワークにご確認ください。

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