フリーランスの妊娠・出産・育児——産休育休はないが「使える制度」と発注元への配慮の申出【2026年】

社会保険・年金

フリーランスが妊娠したときに最初にぶつかるのは、「休んだら収入が止まる」という現実と、「発注元にいつ・どう伝えるか」という判断です。会社員のような産休・育休の枠組みはありません。

ただし、制度が何もないわけではありません。保険料の免除は届出さえすれば効きますし、2024年11月に施行されたフリーランス法は、発注元に対して育児・介護と業務の両立への配慮を義務づけています。しかもこの配慮は、こちらから申し出ることが起点です。黙っていると何も始まりません。

この記事では、使える公的制度と、発注元への「配慮の申出」の実務を整理します。

注意: 本記事は2026年8月時点で確認できた日本年金機構・厚生労働省・公正取引委員会・各自治体の公表情報にもとづく整理です。国民健康保険料は市区町村ごとに運用が異なる部分があり、個別の契約が配慮義務の対象になるかは取引の実態で判断が変わります。手続きの詳細はお住まいの市区町村と、後述の相談窓口でご確認ください。


まず前提:使えないものをはっきりさせる

雇用されていないため、次のものは対象外です。

制度 フリーランス(業務委託・個人事業主)
産前産後休業(労働基準法) 対象外
育児休業(育児・介護休業法) 対象外
育児休業給付金(雇用保険) 対象外
出産手当金(健康保険) 国民健康保険の加入者は対象外

「休業」という枠組み自体が雇用を前提にしているため、ここは動きません。会社員との制度差の全体像は「フリーランスの社会保険はどうなるのか」で整理しています。

その代わりに効くのが、保険料の免除と、フリーランス法の配慮義務です。


使える制度①:産前産後の保険料免除(届出制)

ここは知っているかどうかで数万円単位の差が出ます。どちらも自動では免除されません。届出が必要です。

国民年金保険料の産前産後期間の免除

  • 対象期間:出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間
  • 多胎妊娠の場合:出産予定日または出産日が属する月の3か月前から6か月間
  • 届出できる時期:出産予定日の6か月前から
  • 窓口:お住まいの市区町村の国民年金担当窓口

重要なのは、この免除期間は「保険料納付済期間」として扱われ、将来の年金額が減らないことです。一般的な保険料免除(申請免除)は将来の年金額が減りますが、産前産後の免除はそこが違います。使わない理由がありません。

国民健康保険料の産前産後期間の免除

2024年1月から始まった制度です。

  • 対象期間:出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月分に相当する保険料
  • 届出できる時期:出産予定日の6か月前から
  • 窓口:お住まいの市区町村の国民健康保険担当窓口

国民健康保険料そのものの負担感については「国保の上限が113万円になる2026年度の改正」もあわせて確認してください。

出産育児一時金

出産育児一時金は、健康保険だけでなく国民健康保険の加入者にも支給されます。金額や申請方法(直接支払制度の利用可否など)は加入先で案内されるため、市区町村の窓口で確認してください。


使える制度②:2026年10月から始まる育児期間中の国民年金保険料免除

産前産後の免除は「出産の前後4か月」で終わりますが、2026年10月から、育児期間中の国民年金保険料の免除が始まります。フリーランス・自営業者にとっては、産後の空白を埋める新しい制度です。

対象期間や要件、届出の方法は「国民年金の育児期間免除が2026年10月に始まる」にまとめています。出産のタイミングによっては産前産後免除と続けて使えるため、両方を前提に資金繰りを立てるのが正解です。


発注元への「配慮の申出」——フリーランス法が定めていること

ここからが、多くの人が知らないまま損をしている部分です。

6か月以上の業務委託なら「配慮義務」、6か月未満でも「努力義務」

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、発注事業者に対して次を定めています。

  • 6か月以上の業務委託:フリーランスからの申出があった場合、育児・介護等と業務を両立できるよう必要な配慮をしなければならない(義務)
  • 6か月未満の業務委託:同様の配慮をするよう努めなければならない(努力義務)

注意すべきは、「申出があった場合」が起点だということです。発注元が察して配慮してくれる制度ではありません。こちらが具体的に申し出て初めて、法律上の義務が動きます。

配慮の例

厚生労働省・公正取引委員会が示している例には、次のようなものがあります。

  • 妊婦健診がある日について、打ち合わせの時間を調整する
  • 就業時間を短縮する
  • 育児・介護のため、オンラインで業務を行えるようにする
  • 業務量や納期を調整する

「契約を止めてください」ではなく、続けるための条件変更を求めるのがこの制度の趣旨です。

申し出るときの実務——抽象的に伝えない

配慮義務があるといっても、発注元は具体的に何を求められているのか分からなければ動けません。実務的には、次の3点をセットで伝えると通りやすくなります。

  1. 時期を数字で:「〇月〇日が出産予定です」「〇月中旬から〇月末は稼働を落とします」
  2. できることを明示:「打ち合わせはオンラインなら継続可能」「量は7割に落とすが納品は継続できる」
  3. 求める配慮を具体的に:「定例会議を午前から午後に」「納期を各回1週間後ろ倒しに」

そしてこのやりとりは、メールやチャットなど記録の残る形で残してください。口頭のみの合意が後で食い違うと、争点そのものを立証できなくなります(「「言った・言わない」で負けないために」)。


「伝えたら切られる」への備え

これが一番の不安だと思います。制度上、次の2つの歯止めがあります。

① 6か月以上の継続的業務委託は、中途解除・不更新に30日前の予告が必要

6か月以上の継続的な業務委託を発注元が中途解除する場合や更新しない場合、原則として30日前までの予告が必要です。契約書上は3か月契約でも、更新を重ねて実質6か月以上になっていれば対象になり得ます。

さらに、予告日から契約満了までの間にフリーランスが理由の開示を請求すれば、発注元には開示する義務があります。「なんとなく終わり」にはできない、ということです。

② 行政に申し出たことを理由とする不利益取扱いは禁止

配慮がまったくなされない、あるいは申出を理由に発注を減らされたという場合、行政機関に申し出ることができます。**申出をしたことを理由に契約解除や取引数量の削減などの不利益な取扱いをすることは、法律で禁止されています。**申出の具体的な手順は「フリーランス法違反かも、と思ったら」にまとめました。

相談窓口

  • フリーランス・トラブル110番:0120-532-110(9時30分〜16時30分/土日祝除く)。厚生労働省の委託事業で、弁護士に無料で相談できます
  • 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):就業環境の整備(育児介護等への配慮、ハラスメント対策、中途解除の予告など)に関する相談先

保育園の申込みは、妊娠中から逆算する

出産後に必ず来るのが保育園です。フリーランスは雇用主がいないため、就労証明書を自分で作成することになり、就労実態を客観的に示す資料の準備が結果を左右します。認可保育園の4月入園の一次申込は前年の10〜12月に集中するため、妊娠中から稼働記録と契約書・請求書を残しておくのが実質的な準備になります。

詳しくは「フリーランスの保育園入園と就労証明書」を参照してください。


まとめ:3つのポイント

  1. 休業制度はないが、保険料免除はある(届出制) … 国民年金・国民健康保険とも、出産予定日・出産日が属する月の前月から4か月が免除対象(多胎は3か月前から6か月)。届出は出産予定日の6か月前から可能で、国民年金の産前産後免除は納付済期間扱いなので将来の年金が減らない
  2. 配慮は「申し出て」初めて義務になる … 6か月以上の業務委託なら配慮義務、6か月未満でも努力義務。時期・できること・求める配慮を具体的に、記録の残る形で伝える
  3. 切られる不安には制度上の歯止めがある … 6か月以上の継続的業務委託の中途解除・不更新は原則30日前予告+理由開示請求権。行政への申出を理由とする不利益取扱いは禁止

「言っていいことなのか分からない」まま黙って収入を落としてしまうのが、いちばんもったいないパターンです。フリーランス法と社会保険の基礎は、無料のフリーランス検定(ベーシック・30問)で確認できます。契約・保険・税務の実務は、電子書籍『フリーランスの教科書』で全110章にまとめています。


参考リンク

知識を無料で確認する

この記事のテーマは登録不要の10問体験版や無料のベーシック検定(30問)でも出題されています。フリーランス・副業の実務知識を体系的に確認できます。

関連記事