フリーランス法違反かも、と思ったら——公取委への「申出」の出し方と、その後に起きること【2026年】

契約・法律

「発注書がないまま作業が始まった」「納品したのに支払日がはっきりしない」——業務委託ではよくある話として流されてきたこれらは、2024年11月にフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されて以降、明確に発注側の義務違反にあたり得る行為です。

そして実際に、行政は動いています。公正取引委員会が2026年6月10日に公表した運用状況によると、令和7年度の1年間で勧告10件・指導1,542件。決して「制度はできたが誰も使っていない」状態ではありません。

この記事では、違反かもしれないと思ったときに何をどこへ申し出るのか、申し出た後に何が起きるのか、そして申し出たことで報復されないための仕組みを整理します。

注意: 本記事は2026年8月時点で確認できた公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁の公表情報にもとづく整理です。個別の事案が違反にあたるかどうかは、契約内容や取引の実態によって判断が変わります。具体的な対応は、後述の相談窓口や弁護士にご相談ください。


行政はどのくらい動いているのか——令和7年度の実績

公正取引委員会が公表した令和7年度(2025年度)のフリーランス法第2章の運用状況は、次のとおりです。

項目 令和7年度の実績
違反があるとして申し出られた件数 604件
勧告 10件
指導 1,542件
原状回復が行われた金額 総額1,734万円

注目したいのは、勧告10件に対して指導が1,542件という比率です。勧告はニュースになりますが、実際に多いのは公表を伴わない指導であり、その過程で未払い分の支払いなどの原状回復が行われています。「勧告されるほどの大事にはならないだろうから申し出ても無駄」という見立ては、実態と合っていません。

何が問題になっているのか——違反類型トップ3

同じ資料で示された違反行為の内訳は次のとおりです。

  1. 期日における報酬の支払義務違反 … 1,135件(41.6%)
  2. 取引条件の明示義務違反 … 1,126件(41.3%)
  3. 買いたたき … 250件(9.2%)

上位2つで8割を超えます。つまり行政が実際に是正させているのは、複雑な契約解釈の話ではなく、「発注時に条件を書面等で示す」「決めた期日に払う」という基本動作です。

自分の取引がこれに当たるかを判断する前提として、発注側にどんな義務があるのかは「フリーランスの契約書チェックリスト10項目」で整理しています。


どこに申し出るのか——窓口は内容で分かれる

フリーランス法は大きく2つの章に分かれており、担当する行政機関が違います。

取引の適正化(第2章)→ 公正取引委員会・中小企業庁

  • 取引条件の明示がない
  • 報酬が受領日から60日以内の期日に支払われない
  • 受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制 など

就業環境の整備(第3章)→ 厚生労働省(都道府県労働局)

  • 募集情報が実際と違う(的確表示義務違反)
  • 育児介護等への配慮がない
  • ハラスメントへの対応体制がない
  • 継続的な業務委託の中途解除・不更新の予告がない

**オンラインでの申出については、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省で共通の申出受付フォームが設置されています。**どちらの章にあたるか自分で切り分けられない場合でも、まず出してみて差し支えありません。

迷ったら、先に無料の相談窓口を使う

いきなり行政に申し出ることに抵抗があるなら、厚生労働省の委託で第二東京弁護士会が運営する**「フリーランス・トラブル110番」(0120-532-110)**が使えます。弁護士に無料で相談でき、話し合いがまとまらない場合の和解あっせんも扱っています。

未払いが起きている場合の実務的な手順は「報酬が支払われないときの5ステップ」にまとめました。


申し出たら報復されないか——不利益取扱いは禁止されている

これが最大の懸念だと思います。結論から言うと、**フリーランス法は、フリーランスが行政機関に申出をしたことを理由に、発注事業者が不利益な取扱いをすることを禁じています。**契約を解除する、取引数量を減らす、以後発注しない——こうした報復的な対応は、それ自体が法の禁じるところです。

また、申出にあたって匿名での取扱いを希望することもできます。申出内容が個別の是正指導に直結しない場合でも、行政が業界単位の実態調査や一斉指導の端緒として使うため、無駄にはなりません。

とはいえ、制度上禁止されていることと、現場で心理的なハードルがないことは別です。だからこそ、次のステップ順が現実的です。

  1. 記録を固める … 発注のやりとり、納品の事実、請求書、督促の履歴。証拠の残し方は「「言った・言わない」で負けないために」を参照
  2. 匿名・無料で相談する … フリーランス・トラブル110番で、そもそも違反にあたるのかを確認する
  3. 申し出る … 共通フォームから。匿名希望も可能

申し出た後、行政は何をするのか

行政が違反の事実を認めた場合の流れは、段階的に強くなります。

① 指導・助言

最も件数が多い段階です。発注事業者に対して是正を求め、必要に応じて未払い分の支払いなどの原状回復を行わせます。事業者名は公表されません。令和7年度に総額1,734万円の原状回復が行われたのは、主にこの段階を含む対応の結果です。

② 勧告

必要な措置をとるべきことを勧告します。フリーランス法に基づく勧告は、事業者名を含めて公正取引委員会のウェブサイトで公表されています。施行後は出版・映像などのコンテンツ制作分野を中心に勧告が積み上がっており、どの義務にどう違反したのかも読めるため、自分の取引と照らし合わせる資料として有用です。

③ 命令・公表、そして罰則

勧告に従わない場合は命令が出され、その旨が公表されます。命令に違反した場合には罰金が科されます。

なお、フリーランスへの発注が下請法(取適法)の対象にもなるケースがあります。2026年1月施行の改正で名称・規律が変わった点は「取適法(改正下請法)とフリーランス」で整理しています。


まとめ:3つのポイント

  1. 行政は実際に動いている … 令和7年度は申出604件に対し、勧告10件・指導1,542件、原状回復総額1,734万円(公正取引委員会・2026年6月10日公表)
  2. 多いのは基本動作の違反 … 期日における報酬支払義務違反(41.6%)と取引条件の明示義務違反(41.3%)で8割超。特別な事案でなくても対象になり得る
  3. 窓口は内容で分かれるが、オンラインは共通フォーム … 取引適正化は公正取引委員会・中小企業庁、就業環境整備は厚生労働省。申出を理由とする不利益取扱いは法で禁止されており、匿名希望も可能

「これは言っていいことなのか」を判断できるかどうかは、知識の有無で決まります。契約・報酬・下請法まわりの基礎は、無料のフリーランス検定(ベーシック・30問)で確認できます。契約実務と法律の全体像は、電子書籍『フリーランスの教科書』で全110章にまとめています。


参考リンク

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