家族に給料を払って経費にする——青色事業専従者給与の要件・金額の決め方と3つの落とし穴【2026年版】
経費・節税
配偶者に経理や事務を手伝ってもらっている。親に電話番と発送作業をお願いしている——フリーランスや個人事業主にはよくある光景です。
そこで多くの人がつまずくのが、「その家族に払った給料は経費になるのか」という点です。
結論から言うと、生計を一にする配偶者や親族に支払った対価は、原則として必要経費になりません(国税庁 No.2075)。家族間でお金を動かすだけで所得を分散できてしまうと、税負担を自由に調整できてしまうためです。
ただし例外が2つあります。青色申告の「青色事業専従者給与」と、白色申告の「事業専従者控除」です。この記事では、両者の違い・4つの要件・届出期限・金額の決め方、そして見落としやすい3つの落とし穴を整理します。
青色と白色で、扱いはここまで違う
| 青色申告:青色事業専従者給与 | 白色申告:事業専従者控除 | |
|---|---|---|
| 経費にできる額 | 届け出た範囲内で、労務の対価として相当な金額 | 定額(下記の計算式) |
| 事前の届出 | 必要(青色事業専従者給与に関する届出書) | 不要 |
| 実際の支払い | 届け出たとおりに支払うことが前提 | 支払いの有無にかかわらず控除方式 |
| 上限 | 法定の上限額はない(過大部分は否認) | 配偶者86万円/その他の親族50万円が上限 |
白色申告の事業専従者控除は、次のいずれか低い方の金額です(国税庁 No.2075)。
- 配偶者なら最高86万円、その他の親族なら1人あたり最高50万円
- この控除をする前の事業所得等の金額 ÷(事業専従者の数 + 1)
たとえば控除前の事業所得が300万円で専従者が配偶者1人なら、300万円 ÷ 2 = 150万円と86万円を比べて、低い方の86万円が控除額になります。逆に控除前の所得が150万円しかなければ、150万円 ÷ 2 = 75万円が上限です。所得が小さいほど控除も小さくなる仕組みです。
青色申告にはこの定額の縛りがありません。実際に働いてもらっている内容に見合う金額であれば、86万円を超える給与も経費にできます。青色申告そのもののメリットは青色申告65万円控除の取り方で解説しています。
専従者と認められるための4つの要件
青色事業専従者に該当するには、次のすべてを満たす必要があります(国税庁 No.2075)。
- 事業主と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- その年の12月31日時点で15歳以上であること
- その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していること(白色の事業専従者控除では不要)
要件1〜3は白色の事業専従者控除でも共通です。
「専ら従事」が最大の関門
実務でもっとも問題になるのが3番目です。他にフルタイムの仕事を持っている家族は「専ら従事」とは言えず、専従者として認められない可能性が高くなります。パート勤務や学業との兼務も同様に、実態次第で否認されます。
ただし例外もあります。年の中途で開業した場合など、その年に事業へ従事できる期間そのものが短いときは、従事可能期間の2分の1を超える期間従事していれば要件を満たすとされています(所得税法施行令165条、国税庁 質疑応答事例)。8月に開業したなら、8〜12月のうち半分を超えて従事していればよい、という考え方です。
学生についても、昼間の学校に通う人は原則として専従者になれませんが、夜間の学校や通信制の学生で、昼間に事業へ従事できる実態がある場合は認められる余地があります(所得税基本通達57-2)。家族の状況が微妙なときは、判断を自分で決め切らず税務署や税理士に確認してください。
届出期限は原則3月15日——「届け出た額」しか経費にできない
青色事業専従者給与を経費にするには、必要経費に算入しようとする年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出します。その年の1月16日以後に開業した場合、または新たに専従者を持つことになった場合は、その日から2か月以内が期限です(国税庁 A1-10)。
届出書には専従者の氏名・仕事の内容・給与の金額・支給期を書きます。ここで見落としやすいのが、届け出た金額の範囲内でしか経費にできないという点です。「月8万円」で届け出た人が業績好調で月15万円払っても、超過部分は必要経費になりません。金額を上げるときは「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を遅滞なく提出します。
開業のタイミングで青色申告承認申請書とセットで出しておくのが結局いちばん確実です。開業時の届出は開業届の書き方・e-Taxでの出し方にまとめています。
金額はどう決めるか
基準は「第三者に頼んだらいくら払うか」
法令上の金額の上限はありませんが、経費にできるのは労務の対価として相当と認められる金額までです。過大とされる部分は必要経費になりません(国税庁 No.2075)。
判断のよりどころは、その仕事を家族以外に頼んだ場合の相場です。週に何時間、どんな作業をしているのかを業務日報や勤務表として残し、地域・職種の時給水準から積み上げると説明しやすくなります。売上が伸びた年だけ大きく増額するなど、利益調整に見える動かし方は避けたほうが無難です。
源泉徴収がかからないラインを目安にする方法
給与を払う以上、事業主は源泉徴収義務を負います。「扶養控除等申告書」の提出を受けた甲欄で計算する場合、令和8年分の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)では、社会保険料等控除後の給与月額が105,000円未満であれば税額は0円です(国税庁 令和8年分 源泉徴収税額表)。
このラインは以前の「88,000円未満」から引き上げられています。令和7年度の税制改正で給与所得控除の最低保障額が65万円に、基礎控除が最大95万円になったこと(基礎控除が最大95万円に)に合わせて税額表が改正されたためです。古い記事やテンプレートには88,000円のまま書かれているものが残っているので注意してください。
なお、税額表は改正のたびに変わります。その年に適用される最新の税額表を必ず確認してください。また、源泉徴収されない金額であっても、住民税の非課税ラインは自治体ごとに異なり、国民健康保険料の算定にも専従者の所得が反映されます。所得税だけを見て金額を決めると、世帯全体では手取りが減ることがあります。
見落としやすい3つの落とし穴
① 配偶者控除・扶養控除が使えなくなる
青色事業専従者として給与の支払を受ける人、および白色申告者の事業専従者である人は、同一生計配偶者や扶養親族になれません(国税庁 No.2075)。給与が少額でも例外はありません。
つまり、月2〜3万円程度の専従者給与を出すと、経費が年30万円ほど増える一方で配偶者控除(一般に38万円)を失い、差し引きで損をすることがあります。少額を払うくらいなら払わない、という判断が合理的な場面は実際にあります。世帯全体でどちらが有利かを試算してから決めてください。節税策の優先順位そのものは効果が大きい順に整理した記事も参考になります。
② 給与を払う側の事務が一式ついてくる
家族への給与でも「給与の支払い」であることに変わりはなく、次の手続きが発生します。
- 給与支払事務所等の開設届出書を、開設から1か月以内に提出(国税庁 A2-7)
- 源泉徴収した所得税の納付。原則は翌月10日までですが、給与の支払を受ける人が常時10人未満なら「源泉所得税の納期の特例」の承認を受けることで、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日の年2回にまとめられます
- 年末調整、源泉徴収票の作成、市区町村への給与支払報告書の提出
源泉徴収の仕組み全般はフリーランスの源泉徴収で解説しています。立場が「されるとき」から「する側」に変わる点を押さえておきましょう。
③ 労災保険・雇用保険は原則として対象外
同居の親族は、原則として労災保険法上の「労働者」に該当しません(厚生労働省・愛媛労働局)。雇用保険も同様に、同居の親族は原則として被保険者になりません。
例外として、同居の親族以外の労働者を常時使用していて、就労実態や賃金が他の従業員と同様であるなど一定の要件を満たす場合には労働者として扱われることがあります。判断は実態によるため、該当しそうな場合は所轄の労働基準監督署・ハローワークに確認してください。「給与を払っているのだから労災も使えるはず」という思い込みは危険です。
手続きチェックリスト
- 家族が要件(生計一・15歳以上・6か月超もっぱら従事)を満たすか確認した
- 青色申告承認申請書を提出済み(未提出なら白色の事業専従者控除で検討)
- 青色事業専従者給与に関する届出書を期限内(原則3月15日/開業等から2か月以内)に提出した
- 給与の金額を、仕事内容と勤務実績から説明できる根拠つきで決めた
- 配偶者控除・扶養控除を失うことを織り込んで、世帯全体で有利か試算した
- 給与支払事務所等の開設届出書を提出した(開設から1か月以内)
- 源泉徴収と納付(必要なら納期の特例)、年末調整、給与支払報告書の段取りを決めた
- 勤務時間・作業内容を記録に残す仕組みを作った
まとめ
- 生計を一にする家族への給与は原則経費にならず、青色事業専従者給与か白色の事業専従者控除が唯一の入口。青色は届出が要る代わりに定額の上限がない
- 届出期限は原則3月15日(開業等から2か月以内)。届け出た金額の範囲内しか経費にできず、増額には変更届出書が必要
- 金額は「労務の対価として相当か」で決まる。配偶者控除・扶養控除を失う点、源泉徴収などの事務が増える点、労災・雇用保険が原則使えない点まで含めて、世帯全体で損得を判断する
税額表や控除額は毎年のように見直されます。金額を決める前に、その年の国税庁の源泉徴収税額表と、お住まいの自治体の住民税・国民健康保険の基準を確認してください。判断に迷う規模になったら税理士への相談が結果的に安く付きます。
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