特定親族特別控除とは——大学生の子がいるフリーランスの「159万円の壁」【2026年8月改正】
税務・確定申告
大学生の子がアルバイトをがんばった結果、親の税負担が一気に増える——長くそう言われてきました。19〜22歳の子には最大63万円の特定扶養控除がありますが、子の収入が一定額を超えると、その控除がまるごと消えていたからです。
この「崖」をなだらかにするために設けられたのが特定親族特別控除です。国税庁の解説によると、令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適用されます。
さらに令和8年度税制改正(施行: 令和8年12月1日、令和8年分以後の所得税に適用)で基礎控除等の引上げにあわせて所得要件も見直され、令和8年分・9年分は下限が合計所得62万円超(給与収入136万円超)に引き上げられました。本記事は改正後の最新の数値で解説します。
フリーランス・個人事業主の親にとっては、会社員とは違う注意点が2つあります。年末調整がないので自分で確定申告に反映すること、そして子に専従者給与を払っている場合は対象外になることです。
本記事は2026年8月時点の国税庁の公表情報(令和8年度税制改正を反映)にもとづいています。 個別の適用可否は所轄税務署または税理士にご確認ください。
何が問題だったのか——「崖」としての扶養控除
まず前提を整理します。
19歳以上23歳未満の親族を扶養している場合、親は特定扶養控除63万円を所得から差し引けます。通常の扶養控除38万円より手厚く設定されているのは、この年代が教育費のピークにあたるためです。
問題は、この控除があるかないかの二択だったことです。子の合計所得金額が基準を1円でも超えると、63万円の控除がまるごとなくなります。所得税・住民税を合わせると、世帯の手取りが十数万円単位で減ることもありました。
結果として何が起きたか。**「扶養を外れるからシフトを減らす」**という働き控えです。人手が足りない現場と、稼ぎたい学生と、税負担を避けたい親の利害が、制度のせいで噛み合わなくなっていました。
特定親族特別控除の中身
誰が「特定親族」にあたるか
国税庁によると、特定親族とは次の要件を満たす人です(令和8年度改正後・令和8年分以後の基準)。
- 居住者と生計を一にする親族(配偶者を除く)または里子
- 年齢19歳以上23歳未満
- 合計所得金額が62万円超123万円以下(令和7年分は58万円超123万円以下)
- 青色事業専従者として給与の支払を受ける人・白色事業専従者を除く
- 控除対象扶養親族に該当しないこと
ポイントは、合計所得金額62万円超という下限があることです。62万円以下であれば従来どおりの特定扶養控除(63万円)の対象なので、特定親族特別控除はその上のゾーンを引き継ぐ制度という位置づけになります。
控除額の表
国税庁が示す控除額は次のとおりです(令和8・9年分)。子の合計所得金額に応じて段階的に減っていきます。
| 子の合計所得金額 | 控除額 |
|---|---|
| 62万円超 85万円以下 | 63万円 |
| 85万円超 90万円以下 | 61万円 |
| 90万円超 95万円以下 | 51万円 |
| 95万円超 100万円以下 | 41万円 |
| 100万円超 105万円以下 | 31万円 |
| 105万円超 110万円以下 | 21万円 |
| 110万円超 115万円以下 | 11万円 |
| 115万円超 120万円以下 | 6万円 |
| 120万円超 123万円以下 | 3万円 |
合計所得金額が123万円を超えると適用されません(この上限自体は令和8年度改正の前後で変わっていません)。
給与収入に置き換えるといくらか
子の収入がアルバイト給与だけの場合、合計所得金額は「給与収入 − 給与所得控除」で計算します。令和8年度税制改正で給与所得控除の最低保障額が65万円→74万円に引き上げられたことにあわせて、国税庁は合計所得金額123万円以下を給与収入197万円以下(令和8・9年分)としています。
これを踏まえて給与収入ベースに直すと、次のようになります(令和8・9年分)。
| 子の給与収入(アルバイトのみの場合) | 親が受けられる控除 |
|---|---|
| 136万円以下 | 特定扶養控除 63万円 |
| 136万円超 159万円以下 | 特定親族特別控除 63万円 |
| 159万円超 197万円以下 | 特定親族特別控除 61万円〜3万円(段階的に減少) |
| 197万円超 | 適用なし |
かつて「150万円の壁」と呼ばれていたのはこの表の2行目にあたる範囲です。 令和8年度税制改正で基礎控除・給与所得控除の最低保障額が引き上げられた結果、令和8・9年分は控除63万円が維持される上限が給与収入159万円まで広がりました(令和7年分は150万円が上限)。かつてのような「1円超えたら全額消滅」ではなくなっている点は変わりません。
子の収入がアルバイト(給与)以外にある場合——たとえば業務委託でデザインやライティングを請けている場合——は、給与所得控除ではなく必要経費を差し引いた事業所得または雑所得で計算します。合計所得金額の考え方が変わるので、上の給与収入の目安表はそのまま使えません。
基礎控除の見直しなど、同時期の所得税改正の全体像は「基礎控除95万円への引上げ——フリーランスへの影響」で解説しています。
フリーランスの親が注意すべき3点
注意1:年末調整がないので確定申告で反映する
会社員の親は、勤務先に「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出することで年末調整で処理できます。一方、フリーランス・個人事業主にはその仕組みがありません。
自分の確定申告書の該当欄に記載して適用を受けることになります。子の合計所得金額が確定していないと控除額が決まらないため、年明けにアルバイト先の源泉徴収票を確認してから申告書を作成する流れになります。
年末に子へ「今年いくら稼いだか、源泉徴収票をもらったら見せて」と伝えておくだけで、申告時の手戻りが減ります。
注意2:子に専従者給与を払っている場合は対象外
これはフリーランス特有の落とし穴です。
国税庁の定義では、青色事業専従者として給与の支払を受ける人および白色事業専従者は、特定親族から除かれます。
つまり、大学生の子に事務や制作を手伝ってもらい、青色事業専従者給与を払っている場合、その子について特定親族特別控除は使えません。専従者給与は全額を必要経費にできる仕組みなので二重の優遇を避ける趣旨ですが、「経費にする」か「控除を取る」かの選択になるという点は意識しておく必要があります。
どちらが有利かは、専従者給与の額・親の所得水準・子の他の収入によって変わります。金額が大きい場合は事前に試算するか、税理士に確認してから決めるのが安全です。
注意3:税金の扶養と社会保険の扶養は別物
これがいちばん誤解されやすい点です。
特定親族特別控除は所得税(および住民税)の話であり、健康保険の被扶養者かどうかとは基準が別です。健康保険では一般に年収130万円未満などの基準で被扶養者を判定し、その運用は加入している健康保険組合等によって異なります。
「税金は197万円まで段階的に見てもらえる」からといって、社会保険の扶養も同じように見てもらえるわけではありません。子の収入が130万円を超えると、税の控除は残っていても健康保険は子自身で加入することになる、というケースが起こりえます。
社会保険の扶養の考え方は「130万円の壁、2026年4月から変わった」および「106万円の壁、2026年10月の見直し」で整理しています。
なお、国民健康保険には「被扶養者」という仕組み自体がなく、世帯の加入者ごとに保険料が計算されます。フリーランスで国保に加入している世帯では、そもそも「子を健康保険の扶養に入れる」という発想が当てはまらない点にも注意してください。
扶養・所得控除の基本はフリーランス検定(ベーシック・無料・30問)の出題範囲です。知識の確認にご活用ください。
子の側から見た注意点
子自身にも税金がかかる点は変わりません。子の合計所得金額が基礎控除などを超えれば、子自身に所得税・住民税が発生します。「親の控除が残るから子も無税」ではありません。
また、アルバイト先で源泉徴収されている場合、年末調整または確定申告をしないと払いすぎた税金が戻らないことがあります。掛け持ちで複数のアルバイトをしている学生は特に、確定申告が必要になるケースがあります。
副業・複数収入がある場合の申告の考え方は「副業の確定申告、いくらから必要?」も参考にしてください。
まとめ:3つのポイント
特定親族特別控除は「崖」をなだらかにする制度: 19歳以上23歳未満・合計所得金額62万円超123万円以下(令和8・9年分)の親族が対象で、控除額は最高63万円から段階的に減少します。制度自体は令和7年12月1日施行・令和7年分以後の所得税に適用され、令和8年度税制改正(令和8年分以後)で所得要件が62万円超に引き上げられました
給与収入なら159万円までは控除63万円が維持され、197万円超で適用なし(令和8・9年分): 従来のように基準を1円超えて63万円がまるごと消える構造ではなくなりました。ただし子の収入が給与以外の場合は計算方法が変わります
フリーランスの親は「確定申告で反映」「専従者給与との選択」「社会保険の扶養は別基準」の3点に注意: 特に子に専従者給与を払っている場合は特定親族から除かれるため、経費にするか控除を取るかの判断が必要です
電子書籍『フリーランスの教科書』では、所得控除・扶養・確定申告の実務を全110章で体系的に解説しています。家族構成に応じた税負担の考え方を整理したい方にもご活用いただけます。
参考リンク
- 国税庁・No.1177 特定親族特別控除: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1177.htm
- 国税庁・令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について: https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
- 国税庁・令和8年度税制改正(基礎控除の引上げ等関係)Q&A: https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/pdf/0026005-024.pdf
- 国税庁・令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/2026kaisei.pdf
- 国税庁・No.1180 扶養控除: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
知識を無料で確認する
この記事のテーマは登録不要の10問体験版や無料のベーシック検定(30問)でも出題されています。フリーランス・副業の実務知識を体系的に確認できます。