報酬20万円で200万円請求されないために——フリーランスの損害賠償と「上限条項」の入れ方

契約・法律

「報酬20万円の仕事で、200万円の損害賠償を請求された」——フリーランスの契約トラブルで、いちばん怖いのはこのパターンです。

納品物に不具合があったとき、責任がどこまで及ぶかを決めるのは、実は法律だけではありません。契約書に何が書いてあるかで結論が大きく変わります。この記事では、2020年の民法改正で変わった契約不適合責任の中身と、契約書に入れておくべき3つの条項を、文例つきで整理します。


「瑕疵担保責任」は2020年に「契約不適合責任」へ変わった

2020年4月施行の改正民法で、旧来の瑕疵担保責任は契約不適合責任に統一されました。フリーランスにとって重要なのは、責任の対象が広がった点です。

項目 旧制度(瑕疵担保) 現行(契約不適合)
対象 隠れた欠陥のみ 契約内容と異なるすべての不適合
請求できること 解除・損害賠償 追完・減額・損害賠償・解除
受託者の過失 不要 不要(過失がなくても責任を負う)

つまり「悪気はなかった」「手は抜いていない」は、原則として抗弁になりません。契約で約束した内容と違うものを納めたという事実だけで、責任の入口に立たされます。


クライアントが選べる4つの請求権

不適合が見つかったとき、発注者は次の4つから請求内容を選べます。

  1. 追完請求 — 修正・やり直しの要求。無償対応が原則です(民法562条1項)
  2. 代金減額請求 — 追完が不能・拒絶された場合などに、報酬の一部返金を求められます
  3. 損害賠償請求 — 不適合によって実際に生じた損害の賠償
  4. 契約解除 — 不適合が重大な場合、契約自体を解いて報酬の返還を求められます

実務でまず来るのは①追完請求です。修正で解決できる案件なら、いきなり返金や賠償に応じる必要はありません。「◯月◯日までに修正対応します」と書面で約束するほうが、金銭的にも関係的にも損が小さくなります。


賠償額を決めるのは「予見可能性」(民法416条)

損害賠償の範囲は無制限ではありません。民法416条は、賠償の対象を契約の時点で予見できた損害に限っています。

例)1,000円のバナー制作が1週間遅れた。その間にクライアントの競合が市場参入し、「2,000万円の逸失利益を賠償しろ」と言われた。 → バナー1枚の遅延から2,000万円の逸失利益を予見するのは通常困難で、予見可能性を欠く損害として争う余地があります。

損害の種類 中身 賠償が認められやすさ
直接損害 報酬相当額、やり直し費用など 高い
逸失利益 本来得られたはずの利益 契約内容次第
間接損害 第三者への補償、信用毀損など 低い

ただし「予見できたかどうか」は最終的に裁判所の判断です。争えば時間も費用もかかります。争わずに済むよう、契約書であらかじめ線を引いておくのが実務の答えになります。


いつまで責任を負うのか——民法637条の通知期間と時効

請負契約では、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ、追完・減額・損害賠償・解除を求められなくなります(民法637条1項)。ただし、受託者に悪意または重過失がある場合はこの期間制限は適用されません(同条2項)。

さらに、権利そのものは消滅時効にかかります。一般的な債権の時効ルールにより、権利行使できると知った時から5年、または引渡しから10年が上限の目安です。

注意したいのは、この「知った時から1年」は起算点が発注者側の認識にあるため、納品から何年も経ってからカウントが始まりうるという点です。だからこそ、次に説明する契約書での期間短縮が効きます。


契約書に入れる3つの条項(文例つき)

① 責任期間を区切る

乙は、納品物の検収完了日から3か月間に限り、契約不適合責任を負うものとする。
当該期間の経過後に甲が通知した不適合については、乙は責任を負わない。

期間の相場感は次のとおりです。

期間 向き・不向き
1か月 リスクは最小。発注者の抵抗は大きい
3か月 バランス型。実務で最も受け入れられやすい
6か月〜1年 信頼は得やすいが、抱えるリスクは大きい

② 賠償額の上限を決める(最重要)

本契約に関し乙が負う損害賠償の総額は、本契約に基づき乙が受領した報酬額を上限とする。
賠償の対象は直接かつ現実に生じた損害に限り、逸失利益その他の間接損害を含まない。

冒頭の「報酬20万円で200万円請求」は、この一文があれば20万円が上限になります。1行の有無で、事業が続くかどうかが変わりかねません。

③ 免責範囲を書いておく

次の各号に起因する不適合について、乙は責任を負わない。
(1) 甲による仕様の変更または指示の誤り
(2) 甲が指定した環境・サーバー・ツールの不具合
(3) 甲または第三者による納品物の改変
(4) 天災その他の不可抗力

契約書全体の点検は、フリーランスの契約書チェックリストもあわせてご覧ください。報酬を払ってもらえない側のトラブルは報酬未払いの対処法で扱っています。


職種別に「よく揉める場所」を先に潰す

職種 典型的な火種 契約書に書いておくこと
Web制作 旧ブラウザ・端末での表示崩れ、検索順位 対応ブラウザを限定し、順位の保証はしない旨を明記
システム開発 本番環境でのみ出る不具合、脆弱性 動作保証環境の限定、セキュリティ対応の範囲を明記
デザイン 印刷時の色差、支給素材の権利侵害 データ納品時点で完了、支給素材の権利は発注者負担
ライティング・翻訳 文体・用語の食い違い、修正の無限ループ 無償修正の回数、用語集の提供を条件化

いずれも共通するのは、「保証しないこと」を先に書いておくという発想です。トラブルの多くは、書いていない期待値のズレから生まれます。


保険という第二の防衛線

契約書で上限を切っても、そもそも請求されない保証はありません。業務中の事故や納品物に起因する賠償に備えるのが賠償責任保険です。

たとえばフリーランス協会の一般会員(年会費10,000円・2026年8月時点)には、賠償責任保険と報酬トラブル弁護士費用保険が自動付帯するとされています。ほかにも、決済サービスや業界団体が付帯保険を提供している例があります。

ただし、補償の範囲・限度額・免責事由は商品ごとに大きく異なり、故意によるものや、契約上の債務不履行の一部は対象外とされるのが一般的です。「入っているから安心」ではなく、加入前に約款と最新の補償条件を必ず確認してください。


まとめ

  1. 契約不適合責任は「隠れた欠陥」だけでなく契約内容と異なるすべてが対象。過失がなくても責任を負う
  2. 賠償範囲は民法416条の予見可能性で限定されるが、争うこと自体がコスト。契約書の「責任期間3か月・上限は報酬額・間接損害は除外」の3点セットで先に線を引く
  3. 通知期間は「不適合を知った時から1年」(民法637条1項)。起算点は発注者の認識なので、契約で検収後3か月などに短縮しておく
  4. 契約書で切りきれないリスクは賠償責任保険で受け止める。補償範囲と免責は加入前に確認する

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