特商法の表記で自宅住所を出さない方法——「請求があれば開示」で省略できる条件と、返品特約8日ルール

契約・法律

noteの有料記事、ココナラ、自分のオンライン講座、BASEやSTORESのショップ——個人のお客様に直接売るフリーランスは増えています。

でも、販売ページを作ろうとして手が止まる人が多いのが「特定商取引法に基づく表記」の欄です。氏名・住所・電話番号を書けと言われても、自宅の住所をネットに晒すのは怖い。

結論から言うと、自宅住所を公開しなくても、合法的に販売する方法があります。

この記事では、フリーランスが個人向けに売るときに関係する特定商取引法(特商法)の表記義務と、住所を守りながら販売するための実務的な選択肢を、消費者庁の公表情報にもとづいて整理します。


そもそも特商法はいつ関係するのか

特定商取引法は消費者を保護するための法律です。適用されるのは「事業者 → 消費者」の取引で、企業同士のB2B取引には原則として適用されません。

つまり、取引相手が企業だけなら特商法の表記義務は基本的に発生しません。 表記が必要になるのは、個人(消費者)向けに売っている場合です。

フリーランスで該当しやすいのは、次のような場面です。

  • ネットショップ(BASE・STORES・Shopify など)で商品を売る
  • オンライン講座・動画教材を有料で提供する
  • noteの有料記事、ココナラ等で個人にサービスを売る
  • 個人向けのコンサルティング・カウンセリングを提供する

これらは特商法上の「通信販売」にあたり、広告(=販売ページ)に一定の事項を表示する義務があります。

なお、業務委託契約の相手が企業か個人かで扱いが変わる論点は、業務委託と雇用の違いもあわせて確認しておくと整理しやすくなります。


通信販売で表示が必要な項目

消費者庁の特定商取引法ガイド(通信販売)によると、通信販売の広告には主に次の事項を表示する必要があります。

区分 表示すべき内容
価格 販売価格(送料が必要ならその額も)
支払 代金の支払時期と支払方法
引渡し 商品の引渡時期・サービスの提供時期
返品 申込みの撤回・契約解除(返品)に関する事項
事業者 販売業者の氏名(名称)・住所・電話番号
内容 商品・サービスの内容や条件

「プロフィール欄に書いてある」「購入画面まで進めば分かる」では足りません。 消費者が申込みの判断をする前に、簡単にたどり着ける場所にまとまっている必要があります。多くのプラットフォームが「特定商取引法に基づく表記」という専用ページを用意しているのはこのためです。

なお、販売するプラットフォーム側が販売者情報を表示する仕組みを持っている場合、扱いが変わることがあります。利用しているサービスの規約と、そのサービスが用意している表記欄の仕様を必ず確認してください。


住所を公開したくないときの2つの選択肢

① バーチャルオフィスの住所を使う

もっとも広く使われている方法です。バーチャルオフィスを契約し、その住所を特商法の表記に記載します。自宅住所を公開せずに、ビジネス用の住所を持てます。

ただし、次の2点は契約前に確認してください。

  • 郵便物の転送・受取の体制(重要書類が届いたときに確実に手元に来るか)
  • 自分の業種で使えるか。許認可が必要な業種の中には、実体のある事務所が要件になっているものがあります

② 「請求があれば遅滞なく開示」で省略する

もうひとつが、特定商取引法11条ただし書を使う方法です。

広告に「請求があれば、氏名・住所・電話番号などを記載した書面(インターネット通信販売では電子メールでも可)を遅滞なく提供します」という趣旨を表示し、かつ実際に遅滞なく提供できる措置を講じている場合、広告上の表示事項を一部省略できます。

実務では、次のような一文を表記欄に置く形が使われています。

住所:特定商取引法第11条ただし書きにより省略しております。ご請求があれば遅滞なく開示いたします。

注意すべきポイントが3つあります。

  1. これは2022年6月施行の改正で新しくできた制度ではありません。 以前から存在する規定です(2022年6月施行の改正の中心は、詐欺的な定期購入商法への対策や、契約解除の妨害禁止などでした)
  2. 省略できるのは「広告への表示」だけで、開示義務そのものは残ります。 請求されたら遅滞なく開示しなければなりません
  3. 「遅滞なく」は数日以内という意味です。 請求を放置したり、実際には対応できない体制のまま省略の一文だけ書いたりするのは、規定を満たしません

自分のケースで省略が認められるか確信が持てない場合は、消費者庁の特定商取引法ガイドで最新の取扱いを確認するか、専門家に相談してください。制度の運用は改正で変わることがあります。

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クーリングオフはないが、返品特約を書かないと8日返品になる

通信販売にクーリングオフはありません。 「気が変わったから返金してほしい」という法律上の返品請求権を消費者は持ちません(クーリングオフがあるのは訪問販売・電話勧誘販売などです)。

だから返品条件は自分で決められる——ここまでは多くの人が知っています。見落とされがちなのはその先です。

特定商取引法15条の3により、広告に返品特約の表示がない場合、消費者は商品の引渡しを受けた日から8日以内であれば返品できます。 このときの返品送料は消費者の負担です。

つまり「返品には応じないつもりだから何も書かない」は、いちばんまずい選択です。何も書かなければ、法律上の初期設定である8日返品が適用されます。

返品特約は、消費者が見やすい箇所に、明瞭に判読できるように表示する必要があります(施行規則9条・16条の3)。表記例は次のようなものです。

  • 「ダウンロード商品のため、返品には応じられません」
  • 「配送商品は到着後7日以内に限り返品可。返送料はお客様負担」
  • 「セミナーチケットの払い戻しは行いません」

商品の引渡しやトラブル時の証拠の残し方は、「言った・言わない」を防ぐ証拠の残し方も参考になります。


誇大広告は明確に禁止されている

もうひとつ、個人向け販売で気をつけたいのが誇大広告の禁止(特商法12条)です。

「このノウハウで確実に月50万円稼げます」「効果がなければ全額返金」(実際には厳しい条件が付いている)といった表示は、違反にあたる可能性があります。

違反すると、100万円以下の罰金のほか、**業務停止命令(最大2年間)**などの行政処分の対象になります。業務停止命令に従わないなど重い違反では、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されることもあります(法人にはさらに重い罰金が科される場合があります)。

この領域は景品表示法とも重なります。どの法律のどの条文が適用されるかは事実関係によって変わるため、表現に迷ったら断定せず、消費者庁のガイドや専門家に確認するのが安全です。取引条件そのものを書面で固める考え方は、フリーランスの契約書チェックリストにまとめています。


まとめ:今日確認すべき3つのこと

  1. 個人向けに売っているなら、表記欄がそろっているか確認する。価格・支払・引渡し・返品・事業者情報・商品内容が、申込み前にたどり着ける場所にあるか
  2. 住所を守る手段は2つ。バーチャルオフィスを使うか、特商法11条ただし書の「請求があれば遅滞なく開示」で省略するか。後者は開示義務が残る点に注意
  3. 返品条件は必ず書く。書かなければ、引渡しから8日以内の返品(送料は消費者負担)が適用される

なお、この記事の内容は一般的な整理です。自分の販売形態が通信販売にあたるか、省略の要件を満たしているかは個別判断になります。 確信が持てない場合は、消費者庁の特定商取引法ガイドまたは専門家に確認してください。


参考リンク

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