報酬が支払われないときの5ステップ——フリーランス法の60日ルールと無料の相談窓口【2026年版】
契約・法律
納品は終わっている。請求書も出した。それなのに入金がない——フリーランスにとって、報酬の未払いは「よくある話」で片づけられない死活問題です。
しかも未払いは、放置するほど回収が難しくなります。相手の資金繰りが悪化していれば、動くのが遅れた人から取りはぐれます。
この記事では、未払いが起きたときにどの順番で・何をすればいいかを5つのステップに整理します。あわせて、2024年11月に施行されたフリーランス法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の「支払期日60日ルール」と、弁護士に無料で相談できる公的窓口の使い方も解説します。
前提:フリーランス法の「60日ルール」を知っておく
対処法の前に、味方になる法律を1つだけ押さえておきましょう。
支払期日は「受領日から60日以内」
フリーランス法では、発注事業者はフリーランスから成果物の納品や役務の提供を受けた日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに報酬を支払う義務を負っています。
ポイントは起算日が「請求書を出した日」でも「検収が終わった日」でもなく、給付を受領した日だという点です。「検収に3か月かかるから支払いはその後」という運用は、この規定に照らして問題になり得ます。
なお、発注事業者が他社から受けた仕事をフリーランスに再委託する場合は、元委託者からの支払期日から起算して30日以内という別のルールが適用されます。
「支払期日を決めていない」は言い訳にならない
支払期日を定めなかった場合は、給付を受領した日が支払期日とみなされます。つまり「期日を決めていなかったから未払いではない」という主張は通りません。
また、この法律は取引条件の書面(電磁的方法を含む)による明示も発注事業者の義務としています。契約書がないまま作業させられていたなら、その時点で発注側にルール違反がある可能性が高い、ということです。
実際、公正取引委員会は支払期日の規定に違反した事業者に対して勧告を行っており、2026年に入ってからも勧告事例とその解説が公表されています。「小さな取引だから誰も見ていない」という状況ではなくなってきました。
制度全体の枠組みは取適法(下請法改正)とフリーランス法の関係の記事で整理しています。
ステップ1:事実と証拠を1か所にまとめる
動く前に、5分で足元を固めます。相手に何かを送る前に手元にそろえておきたいのは次の5点です。
- 契約書・発注書・見積書(なければ発注を示すメールやチャット)
- 納品した事実がわかるもの(納品メール、共有ストレージの履歴、公開されたページなど)
- 請求書(発行日・金額・支払期日の記載)
- 相手からの返信履歴(「来月払います」といった返答は支払義務を認めた証拠として有効)
- 入金がない事実(該当期間の通帳・入出金明細)
チャットツールは過去ログが自動で消える設定になっていることがあります。やり取りのスクリーンショットは早めに保存しておきましょう。証拠は「後から集める」より「消える前に確保する」ほうが確実です。
ステップ2:督促する(メール→書面)
最初は事務的な確認から入ります。担当者の失念や請求書の処理漏れが原因ということも、実際には少なくありません。
1回目(期日から数日):入金確認が取れない旨を事実ベースで連絡し、請求書を再送します。
2回目(1〜2週間後):支払期限を明示して再度連絡します。「◯月◯日までにご入金いただけない場合は、次の手続きを検討します」と次の一手を予告するのがポイントです。
このとき、電話だけで済ませないこと。口頭のやり取りは後で「言った・言わない」になります。電話で話したなら、直後に「本日お電話でお話しした内容の確認です」とメールを送って記録に残します。
ステップ3:内容証明郵便を送る
督促に反応がない、あるいは約束が守られない段階で使うのが内容証明郵便です。
内容証明は「いつ・誰が・誰に・どんな内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれる制度です。それ自体に「支払わせる」法的な強制力はありませんが、次の2つの効果があります。
- 相手へのプレッシャー:会社の代表者宛に届く正式な書面であり、これを受けて支払われるケースは実際に多い
- 証拠になる:後で裁判手続きに進んだとき、請求した事実と時期を証明できる
郵便局の窓口のほか、オンラインの「e内容証明(電子内容証明)」でも送付できます。
書くべき内容はシンプルで構いません。契約内容(日付・業務内容・金額)、納品した事実、未入金である事実、支払期限、期限までに支払いがない場合は法的手続きを検討する旨——この5点です。
ステップ4:無料の公的窓口に相談する
「いきなり弁護士に依頼するのは費用が怖い」という段階で使えるのが、フリーランス・トラブル110番です。
厚生労働省の委託を受けて第二東京弁護士会が運営している窓口で、報酬未払い・あいまいな契約・ハラスメントなど、フリーランス特有のトラブルについて弁護士に無料で相談できます。匿名での相談も可能です。
- 電話:0120-532-110(平日9:30〜16:30/土日祝を除く)
- 相談方法:電話・メール・対面
- 相談だけで終わらせず、和解あっせん(当事者の間に入って解決を目指す手続き)まで利用できるのが大きな特徴
「この金額で裁判までやる価値があるのか」「相手の主張はおかしいのか」といった判断は、経験のない人が一人で決めるのが最も難しい部分です。次のステップに進む前に、無料で専門家の見立てを得られる窓口を一度通すのが合理的です。
フリーランス法違反が疑われる事案については、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の申告窓口もあります。行政の是正を促すルートは、自分の債権を直接回収する手続きとは別物ですが、悪質な発注者に対しては有効な圧力になります。
ステップ5:法的手続きに進む(支払督促・少額訴訟)
ここから先は裁判所を使う手続きです。どちらも弁護士に依頼せず自分で申し立てできるように設計されています。
支払督促
裁判所が書面審査だけで相手に支払いを命じる手続きです。相手が2週間以内に異議を申し立てなければ、そのまま強制執行(差押え)に進めます。手数料は通常の訴訟の半額程度で、法廷に出向く必要もありません。
ただし相手が異議を申し立てると通常訴訟に移行します。相手が「そもそも払う義務がない」と争ってくることが予想される場合には向きません。
少額訴訟
60万円以下の金銭トラブルに使える簡易な裁判手続きです。原則として1回の審理で判決が出るため、通常訴訟より大幅に時間と費用を抑えられます。申立書の書き方は簡易裁判所の窓口でも教えてもらえます。
60万円を超える場合や、相手が本格的に争ってくる場合は通常訴訟になります。請求額140万円以下であれば司法書士も代理人になれるほか、費用面の不安があれば法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助を検討できます。
費用対効果は冷静に見る
手続きに進む前に、現実的な話をひとつ。
- 少額の未払いで弁護士に依頼すると、回収額より費用のほうが大きくなることがあります
- 勝訴しても、相手に差し押さえられる財産がなければ回収できません
- 差押えには相手の口座などを特定する必要があり、それ自体が簡単ではありません
だからこそ、ステップ2〜4(督促・内容証明・無料相談)を丁寧にやる価値が高いのです。回収の大半はここで決着します。
次から未払いを起こさないための3点
未払いは「起きてから回収する」よりも「起こさない」ほうが圧倒的に安上がりです。最低限これだけは押さえましょう。
1. 支払期日を数字で書く 「納品後」「検収後」ではなく「納品日から30日以内」と日数で定めます。フリーランス法の60日ルールは上限であって、目標値ではありません。
2. 高額・長期・初取引には着手金を設定する 着手金30%・中間20%・納品後残額といった分割は、取引全体を失うリスクを大きく下げます。
3. 受注前に相手を調べる 国税庁の法人番号公表サイトで社名を検索すれば、本店所在地・設立日を無料で確認できます。1分もかかりません。「なんとなく怪しい」と感じた時点で調べる習慣が、最大の防御になります。
契約時のチェック項目はフリーランスの契約書チェックリストに、業務委託と雇用の線引きは業務委託と雇用契約の違いにまとめています。
まとめ
- フリーランス法により、報酬は給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に支払われなければならない。支払期日を定めていない場合は受領日が支払期日とみなされる
- 未払いが起きたら ①証拠を固める → ②メール・書面で督促 → ③内容証明郵便 → ④フリーランス・トラブル110番に無料相談 → ⑤支払督促・少額訴訟 の順に進める
- 回収の大半はステップ2〜4で決着する。法的手続きは費用対効果を見て判断する
- 予防は「支払期日を日数で書く」「着手金を取る」「受注前に相手を調べる」の3点
契約・報酬・トラブル対応の知識は、フリーランスとして働くうえで税務と並ぶ必須科目です。自分がどこまで理解できているかは、登録不要の無料テストで30分ほどで確認できます。
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参考・出典
- 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」 https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/
- フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託・第二東京弁護士会運営) https://freelance110.mhlw.go.jp/
- 国税庁 法人番号公表サイト https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/
※本記事は2026年8月時点の情報にもとづく一般的な解説です。個別の案件については、上記の相談窓口や専門家にご確認ください。
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