青色申告75万円控除の要件——「優良な電子帳簿」と「デジタルシームレス」を2026年中に準備する
税務・確定申告
「青色申告は65万円控除」——長く定着してきたこの数字が、2027年分(令和9年分)から75万円に変わります。
ただし、単に10万円増えるという話ではありません。75万円を取るには新しい要件を満たす必要があり、逆に紙で申告を続ける人は控除が大きく下がる方向です。つまり今回の改正は「増額」というより、電子化しているかどうかで差を広げる改正です。
そして重要なのは、この準備が2026年中に必要になるという点です。会計ソフトの設定変更や税務署への届出は、申告直前に慌ててできるものではありません。
本記事は2026年8月時点の公式情報にもとづいています。 令和8年度税制改正の内容は公表されていますが、適用要件の細部・届出様式・手続きの期限は今後の国税庁の案内で確定・追加される部分があります。実際に適用する際は必ず国税庁の最新情報をご確認ください。
まず現在地——2026年分までは「最高65万円」
改正の話に入る前に、現行制度を確認しておきます。
現行の青色申告特別控除(2026年分=令和8年分まで)
| 控除額 | 主な要件 |
|---|---|
| 65万円 | 複式簿記+期限内申告+e-Tax電子申告(または優良な電子帳簿の保存) |
| 55万円 | 複式簿記+期限内申告(書面提出) |
| 10万円 | 簡易な簿記など、上記の要件を満たさない場合 |
65万円控除の取り方そのものについては「青色申告65万円控除の取り方——白色申告との違いと最短手順」で解説しています。本記事は、そこから先の「2027年分に向けた準備」に絞ります。
2027年分からの新しい区分——最高75万円
令和8年度税制改正により、青色申告特別控除が見直されました。令和9年分(2027年分)以後の所得税から適用されるとされています。
75万円控除の要件
公表されている内容によると、75万円控除を受けるには次のすべてを満たす必要があるとされています。
- 不動産所得(事業的規模)または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
- 現金主義による所得計算の特例を選択していないこと
- 複式簿記により記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付すること
- 期限内申告であること
- e-Taxによる電子申告であること
- さらに次のいずれか一方を満たすこと
- ① 優良な電子帳簿の保存
- ② **請求書データ等の自動連携(デジタルシームレス)**への対応
1〜5は現行の65万円控除とほぼ同じ枠組みです。新しく加わるのが6の①②で、ここが今回の改正の核心です。
書面申告は10万円まで下がる見込み
もうひとつ見落とせないのが、反対方向の改正です。書面(紙)で確定申告を提出する場合の青色申告特別控除は、10万円まで引き下げられるとされています。
現行では複式簿記+期限内申告であれば書面提出でも55万円控除が取れますが、改正後はこの区分が実質的になくなる方向です。複式簿記でしっかり記帳していても、e-Taxを使っていなければ控除が10万円になる——という理解になります。
さらに注意: 簡易な簿記で記帳している人のうち、前々年分の不動産所得・事業所得に係る収入金額が1,000万円を超える場合は、10万円の青色申告特別控除も適用できなくなるとされています。売上規模が大きいのに簡易簿記のままという方は、複式簿記への移行を早めに検討してください。
税率が実効30%の人にとって、65万円控除が10万円になれば年間約16.5万円の増税に相当します。「毎年紙で出しているから今年も紙で」という惰性が、そのままコストになる改正です。
要件①「優良な電子帳簿」とは何か
「優良な電子帳簿」は今回の改正で新設された概念ではなく、電子帳簿保存法にすでにある区分です。通常の電子帳簿より一段厳しい要件を満たしたものを指します。
主な要件
公表されている要件の柱は次のとおりです。
- 訂正・削除の履歴が残ること:記帳内容を後から直した場合に、その事実と内容を確認できること
- 帳簿間の相互関連性:関連する帳簿どうしの記録を相互に確認できること
- 検索機能:取引年月日・取引金額・取引先で検索でき、日付や金額は範囲指定でも検索できること
- あわせて、システムの説明書等を備え付けていること
文章で読むと難しく見えますが、実務上は会計ソフトがこの要件に対応しているかどうかの問題です。自分で仕組みを作る必要はありません。
JIIMA認証を目印にする
会計ソフトが要件を満たしているかを判断する目印がJIIMA認証(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会による認証)です。「電子帳簿ソフト法的要件認証」を受けたソフトであれば、機能面の要件は満たしているものとして扱われます。
主要なクラウド会計ソフトは対応済みのものが多いため、まずは自分が使っているソフトの認証状況を確認するのが最短です。ソフト選びの観点は「会計ソフトはfreeeとマネーフォワード、どちらを選ぶか」も参考にしてください。
届出が必要な点に注意
優良な電子帳簿の適用を受けるには、あらかじめ所轄税務署へ届出書を提出する必要があるとされています。ソフトを対応させただけでは足りません。
届出の様式・提出期限は国税庁の案内で確認が必要です。申告時に「届出を出していなかった」と気づいても遡れない性質の手続きなので、2026年中に確認・提出を済ませておくのが安全です。
電子帳簿保存法そのものの基礎は「電子帳簿保存法、フリーランスは何をすればいいのか」で整理しています。
要件②「デジタルシームレス」という新しい選択肢
もうひとつのルートが、**請求書データ等の自動連携(デジタルシームレス)**です。
これは、受け取った請求書などの取引データを、手入力を介さずそのまま会計帳簿に取り込む仕組みを指すものとされています。デジタルインボイスのように、送り手と受け手のシステムがデータで直接つながる形が想定されています。
優良な電子帳簿が「記録の残し方」を求めるのに対し、こちらは「データの入り方」を求める要件、と整理すると分かりやすいはずです。
ただし、具体的にどこまでの連携をもって要件を満たすとするかは、今後の国税庁の案内で明確化される部分です。現時点では「もう一つの選択肢が用意された」という理解にとどめ、多くの個人事業主にとって現実的な準備はまず①の優良な電子帳簿になります。
青色申告・記帳の基本ルールはフリーランス検定(ベーシック・無料・30問)の出題範囲です。制度改正の前提となる基礎知識の確認にご活用ください。
2026年中にやるべき4つの準備
改正の適用は2027年分ですが、準備は2026年中が実質的な期限になります。2027年に入ってから「1年分の帳簿を優良な電子帳簿として保存する」ことは難しいためです。
準備1:e-Tax申告に切り替える(まだの場合)
これが最優先です。書面申告を続けると控除が10万円になる方向の改正なので、電子申告への移行が最大の分岐点になります。e-Taxはマイナンバーカードとスマホがあれば利用でき、会計ソフトからそのまま送信することもできます。
開業直後の方は「開業届と青色申告承認申請書をe-Taxで出す手順」もあわせてご覧ください。
準備2:会計ソフトのJIIMA認証・優良帳簿対応を確認する
使用中のソフトが優良な電子帳簿に対応しているかを確認します。対応していても、設定として有効にする操作が必要な場合があります。ソフトのヘルプで「優良な電子帳簿」の項目を確認してください。
準備3:税務署への届出を確認・提出する
優良な電子帳簿の適用を受ける旨の届出について、様式と提出期限を国税庁で確認し、必要な提出を済ませます。ここが最も抜けやすい工程です。
準備4:複式簿記への移行を完了させる
簡易な簿記のままの方は、複式簿記へ移行します。前々年の収入金額が1,000万円を超える場合、簡易簿記のままだと10万円控除すら使えなくなるとされているため、影響は特に大きくなります。クラウド会計ソフトを使えば、日々の取引入力がそのまま複式簿記の形になります。
よくある誤解の整理
「75万円になるなら、放っておいても控除が増えるのでは?」
いいえ。何もしなければ65万円のまま、書面申告なら10万円まで下がる方向です。増額分を受け取るには新しい要件への対応が必要です。
「2027年になってから対応すればいい?」
帳簿は1年を通じて保存されるものなので、2027年分の帳簿を優良な電子帳簿として扱うには2027年の期首から体制が整っている必要があります。実質的には2026年中の準備が必要です。
「小規模だから関係ない?」
控除額の差は所得の大小にかかわらず生じます。むしろ所得が小さいほど、65万円と10万円の差が課税所得に占める割合は大きくなります。
まとめ:3つのポイント
2027年分(令和9年分)から青色申告特別控除は最高75万円: 複式簿記・期限内申告・e-Taxに加えて「優良な電子帳簿」または「請求書データ等の自動連携(デジタルシームレス)」のいずれかが要件とされています
書面申告は10万円まで下がる方向: 複式簿記で記帳していても、e-Taxを使っていなければ控除が大きく下がるとされています。さらに前々年の収入金額が1,000万円を超える簡易簿記の人は10万円控除も使えなくなるとされています
準備の実質期限は2026年中: e-Taxへの切替、JIIMA認証ソフトの確認と設定、税務署への届出、複式簿記への移行の4点を年内に進める。届出の様式・期限は国税庁の最新案内で確認する
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参考リンク
- 国税庁・No.2072 青色申告特別控除: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁・電子帳簿保存法関係: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm
- 国税庁・e-Tax(国税電子申告・納税システム): https://www.e-tax.nta.go.jp/
- JIIMA・電子帳簿ソフト法的要件認証製品一覧: https://www.jiima.or.jp/certification/denshichobo/
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