就業規則の「副業禁止」はどこまで有効か——一律禁止が通らない理由と、会社が制限できる4つの場合

働き方・開業

「就業規則に副業禁止と書いてある。だから自分は副業できない」——そう考えて諦めている会社員は少なくありません。

ですが、就業規則にその一文があることと、会社が実際に副業を止められることは、同じではありません。

国が示すモデルは、むしろ副業は原則できるという立て付けです。会社が制限できるのは、理由が4つのどれかに当てはまるときに限られます。

この記事では、モデル就業規則の条文・裁判例が示した判断基準・公務員の例外・そして「バレたらどうなるか」の実務を整理します。


「副業禁止」の条文があっても、それだけでは決まらない

勤務時間外は、本来は労働者の時間

雇用契約で会社が買っているのは、決められた勤務時間の労働力です。勤務時間の外は、原則として労働者が自由に使える私的な時間にあたります。

だからこそ、会社が副業を制限したいのであれば、なぜ制限が必要なのかという合理的な理由を会社の側が示す必要があるという考え方が取られています。

背景には、日本国憲法22条1項が職業選択の自由を保障していることがあります。もっとも憲法は国家と個人の関係を定めるものなので、就業規則が直ちに「違憲」になるわけではありません。実務では、就業規則の規定を合理的な範囲に限定して解釈する、という形で調整されています。

国のモデルは「原則OK」に変わった

厚生労働省は2018年にモデル就業規則を改正し、それまでの副業禁止規定を削除して、副業・兼業の規定を新たに置きました。現行の最新版は令和7年12月版で、第70条に次のような形で定められています。

  • 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる
  • 会社は、労働者からの届出に基づき、次のいずれかに該当する場合には、これを禁止または制限することができる

そして、会社が禁止・制限できる場合として挙げられているのが次の4つです。

① 労務提供上の支障がある場合 副業の負荷で本業の勤務に支障が出るケース。深夜まで働いて翌日の業務に影響が出る、といった状況が典型です。

② 企業秘密が漏洩する場合 本業で知り得た情報が副業先に流れるおそれがあるケース。

③ 会社の名誉や信用を損なう行為、信頼関係を破壊する行為がある場合 会社の看板に傷がつく副業や、会社との信頼関係を壊す働き方。

④ 競業により、企業の利益を害する場合 同業他社での就労など、本業と直接競合するケース。

裏を返せば、この4つのどれにも当たらない副業を、会社が一律に禁止する根拠は弱いということになります。

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裁判例が見ている「本業への実害」

とはいえ「規則は無効だから何をしてもいい」ということではありません。裁判所は、規定の文言よりも本業に実際どんな支障が出たかを見ています。

小川建設事件(東京地裁 昭和57年11月19日決定) 兼職を許可制としていた会社で、従業員が無断でキャバレーの業務に従事していた事案です。本業の勤務時間とは重なっていなかったものの、毎日6時間・深夜にわたる就労で、単なるアルバイトの域を超えて本業への支障が大きいと評価され、解雇が有効とされました。

マンナ運輸事件(京都地裁 平成24年7月13日判決) 許可制のもとで会社が副業を不許可としたことの是非が争われた事案です。複数回の申請のうち一部の不許可について、会社の判断が違法と評価されました。許可制であっても、会社が理由なく不許可にできるわけではないことを示した例として知られています。

この2つを並べると、判断の軸が見えてきます。争点になるのは「副業をしたかどうか」ではなく、本業の労務提供に具体的な支障が生じたか、会社の利益が実際に害されたかです。

一方で、無断で始めてよいという話にもなりません。届出・許可の手続を踏まずに始めると、副業の中身に問題がなくても「手続違反」という別の土俵で争いになります。実害がなければ懲戒解雇のような重い処分は過大とされる傾向がありますが、余計なリスクを抱える必要はありません。


自分の会社の規定をどう確認するか

まず見るべき3つ

  1. 就業規則の副業・兼業に関する条項 —— 「禁止」か「許可制」か「届出制」かで、取るべき手続が変わります
  2. 雇用契約書 —— 就業規則が見当たらない場合、契約書に兼業に関する条項が入っていることがあります
  3. 競業避止に関する条項 —— 在職中・退職後に同業の仕事を制限する規定があるかどうか

「就業規則を見たことがない」場合

就業規則は、労働者に周知する義務があります(労働基準法施行規則52条の2)。方法は、作業場の見やすい場所への掲示・備え付け、書面の交付、電子データで閲覧できる環境の整備のいずれかです。

つまり「見たことがない」状態は、本来あるべき姿ではありません。人事部に「就業規則を確認したい」と伝えれば、開示を求めることができます。

なお、常時10人以上の従業員がいる事業場では、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出る義務があります。10人未満の会社では就業規則自体が存在しないこともあり、その場合は雇用契約書の記載が基準になります。


公務員は扱いが違う

ここまでは民間企業の話です。公務員には別のルールが適用されます。

国家公務員法103条・104条、地方公務員法38条により、営利企業の役員兼務や自ら営利企業を営むこと、報酬を得て事業・事務に従事することが原則として制限され、任命権者等の許可・承認が必要とされています。

近年は、自治体によって地域貢献活動などの副業を一定の条件で認める運用も広がっていますが、民間向けのモデル就業規則の考え方をそのまま当てはめることはできません。公務員の方は、必ず所属先の規程と手続を確認してください。


「会社にバレる」経路は、たいてい住民税

規則の問題とは別に、実務でよく相談されるのが発覚の経路です。もっとも多いのは住民税の通知です。

給与から住民税を天引きする特別徴収の仕組み上、副業所得が加わると本業の給与額に対して住民税だけが不自然に増え、会社の経理が気づく、という流れが起こり得ます。この仕組みと、確定申告時に選べる普通徴収の扱いについては副業の住民税でバレる仕組みと防ぎ方で詳しく整理しています。

また、副業の所得がいくらから申告義務になるのかは副業の確定申告はいくらから必要かを、そもそも業務委託と雇用のどちらの契約なのかという入口の整理は業務委託と雇用契約の違いを参照してください。

ただし、隠すことを前提に副業を設計するのはおすすめしません。届出制の会社であれば、手続を踏んだうえで始めるほうが、結果的に安全に続けられます。


まとめ:確認すべき5点

  1. 就業規則の条項を実際に読む —— 「禁止」なのか「許可制」なのか「届出制」なのかを確認する
  2. 4つの制限事由に当たらないかを自己点検する —— 労務提供上の支障・企業秘密・信用毀損・競業
  3. 競業だけは慎重に —— 同業他社の仕事は、規定の書き方を問わずトラブルになりやすい
  4. 手続を飛ばさない —— 副業の中身に問題がなくても、無断は別の争点を生む
  5. 公務員は所属先の規程を優先する —— 民間のモデル就業規則の考え方は適用できない

副業を始める前の就業規則の確認は、フリーランス・副業の実務知識のなかでも入口にあたる部分です。契約・税務・社会保険まで含めた全体像を体系的に確認したい方は、書籍『フリーランスの教科書』(全110章)でも扱っています → https://freelance-kentei.jp/?l=7


参考

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